受領委任制度の定義と目的
受領委任制度とは、はり・きゅう・あん摩マッサージ指圧師が施術を行った際、施術費用のうち患者が自己負担分(通常1割から3割程度)のみを支払い、残りを施術者が保険者に請求する制度です。これは、患者が施術費を一度全額支払ってから保険者に申請を行う「償還払い方式」に比べ、患者の経済的・身体的負担を大幅に軽減する仕組みです。
この制度の目的は、医療を必要とする方々、特に高齢者や障がいをお持ちの方、通院が困難な方が安心して施術を継続できるように支援することにあります。施術にかかる費用の全額を一時的に立て替える必要がなくなるため、多くの患者にとって非常に利便性の高い制度です。
一方、償還払い制度では、施術費を一旦すべて自己負担で支払い、その後、保険者に対して患者自身が療養費支給申請を行います。この申請には時間と手間がかかり、支給されるまで数週間から数か月かかる場合もあります。
以下の表は、両制度の違いを整理したものです。
比較項目
|
受領委任制度
|
償還払い制度
|
支払方法
|
自己負担分のみ支払い
|
全額支払い後に保険者へ申請
|
申請者
|
施術者が代理申請
|
患者本人が申請
|
精算スピード
|
請求・支給がスムーズ
|
支給までに時間がかかる
|
患者の負担
|
軽減される
|
経済的・事務的負担が大きい
|
利用条件
|
施術所登録と施術管理者が必要
|
制限なし
|
この制度を利用するには、施術者が「受領委任取扱い施術所」として登録していること、かつ「施術管理者」としての要件を満たしている必要があります。具体的には、厚生局への申請、実務経験の証明、研修の修了などが求められます。制度を適正に運用し、不正請求を防ぐための厳格な基準となっています。
患者が制度を利用するためには、医師による「同意書」の提出が必要です。この同意書は、保険適用の根拠となるものであり、施術の必要性を医師が確認・承認する書類です。これがないと、療養費の支給が認められない場合があります。
患者の主な対象は、歩行困難な高齢者や慢性疾患を抱える方などです。近年では、東京都や大阪府、兵庫県などの都市部を中心に、この制度の認知が広がっており、地方自治体や保険者も積極的に情報提供を行っています。
受領委任制度は、患者と施術者双方にとって大きなメリットがあり、安心して施術を受けられる環境づくりに貢献しています。
対象となる施術(はり・きゅう・あん摩マッサージ指圧)とは
受領委任制度の対象となる施術は、「はり」「きゅう」「あん摩」「マッサージ」「指圧」の5つです。これらはすべて、厚生労働省によって定められた療養費の対象施術として認められており、医療的な必要性がある場合に限り、保険適用が認められます。
はり(鍼)は、神経痛、リウマチ、五十肩、腰痛症、頚腕症候群、頚椎捻挫後遺症などの慢性的な痛みの緩和を目的とした施術です。施術の前に医師の同意書が必要で、継続的な施術を行う場合には再同意が求められることもあります。
きゅう(灸)は、冷え性や自律神経失調症、婦人科系の不調などに対して行われる施術で、特に女性の利用者が多い傾向にあります。こちらも、はりと同様に医師の同意書が必要です。
あん摩・マッサージ・指圧は、筋肉の緊張をほぐし、血流を促進し、関節の可動域を広げることを目的とした施術です。リハビリの一環として利用されることも多く、慢性疲労や身体のこわばりを和らげる効果が期待されます。
以下の表に、各施術の主な適応疾患と必要書類をまとめました。
施術の種類
|
主な対象疾患
|
医師の同意書の必要性
|
はり
|
神経痛、リウマチ、腰痛、五十肩など
|
必要
|
きゅう
|
冷え性、自律神経失調症、婦人科系の不調
|
必要
|
あん摩
|
肩こり、筋肉の緊張、血流改善
|
必要
|
マッサージ
|
慢性疲労、関節のこわばり、筋力低下
|
必要
|
指圧
|
神経系への働きかけ、疼痛緩和
|
必要
|